くじらのほね
くじらのほね ジョエル・J
古傷だらけのくじらがあった。
くじらはあるとき力尽き、海の底へと沈んでいった。
仲間のだれも届かない、ふかいふかい海の底。
仲間の声も届かない、しずかなしずかな海の底。
沈んだくじらを、追う者がいた。
するどい牙が、傷あと連なるくじらのかわをはぎ取った。
大きなあぎとが、くじらのにくをむしった。
かわも、にくも、はらわたも、いつしかすっかりたべつくされた。
沈んだくじらに、棲む者がいた。
ちいさな、たくさんの口が、少しずつ。
くじらのほねをけずっていく。
けずれたほねは、崩れて、折れて、小さく砂を巻き上げた。
やがて、くじらはすがたを消した。
だれも沈んだくじらをしらない。
くじらは静かに、そこにいた。
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詩だか絵本の文だかよくわからない短文。モデルにしたのは「鯨骨生物群集」。
鯨の死骸周辺に形成される生態系です。
これ自体はケルベロスブレイドとはなんら関係のない単発の話ですが、
「ロストーク(KB)が読んでいそうな本のタイトル」というお題で本のタイトルだけを
考えた際に浮かんだタイトルから、小話を作ってみたのがこれです。
彼が感想文をつけるなら、たったひとこと「きっと、しあわせ」。
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